Ansco V.P. No2
1915年頃の高級カメラ

Ansco VP No2
Ansco VP No2
Ansco VP No2 Helicoide
 1915年に発売されたアンスコ社のストラット保持式蛇腹カメラ。

 Ansco(Binghamton NY)社は1902年に生まれた古い歴史のある会社である。Anthony社とScovill & Adams社が合併して1907年に両者の頭の文字をとってANSCOという社名になった。
 Ansco社は種々のカメラを作っていた会社で、蛇腹カメラにも多くの種類があった。殆どのカメラにユニークな名前は無く、NO.xxが付いていてもこれはフィルムを指すナンバーであり、コダックのブローニーカメラにも同じことがいえる。カメラの種類がそんなに多くない時代のことで名前は必要なかったのだろう。写真のカメラの正式名称は、ANSCO V.P. NO2 である。V.P.とはVest Pocket型のことでチョッキのポケットに入る大きさ、No2は120フィルムを指すと思われる。ライカが生まれる10年も前のことで120フィルムの歴史の重さを改めて感じる。フィルム圧板にPatient Noが刻んであり、SEPT 20 1910に始まり、一番新しいものは FEB.29 1916とある。少なくともこのカメラは1916以降に作られたものである。
 この頃の蛇腹カメラはまだベッドによる折畳式ではなく写真のようなストラット(支柱)による保持式も少なからずあった。ベッド式の折り畳みになるのはもう少し後のことである。レンズはModico Anastigmat F7.5 と彫られている。焦点距離は不明だがレンズの直径が14mmあるので計算では14x7.5=105mmという計算になり、6x9cm蛇腹カメラの標準ということになる。Anastigmatは無収差という意味で高級レンズに好んで用いられた。当時としては高級機のみに付けられたレンズである。シャッターはBionicでスピードはT、B、1/10-1/200秒、最小絞りはF32。写真に写っている右の円盤はレンズキャップで、兆番で開閉するようになっている。内側にはF6.3、F7.5、F8とF11における深度表が印刷されている。ファインダーは小さな反射式のみで縦・横両用に2個用意されている。こんな小さなファインダーを見るのは初めてで果たして実用になったかどうか疑わしい。
 焦点調節はレンズボードの内側にある大きな金属の円盤を回すとヘリコイドが動いてレンズが前に繰り出す、蛇腹カメラとしては珍しいピント機構である。距離合わせは目測式で、距離数値はレンズボードの上にある小さな窓にメートル、フィートの両方が同時に表示される。最短撮影距離は2メートル、6フィート。距離目盛りに∞のマークはなく最長目盛りは30メートル、100フィートである。畳むと写真(中)のようになルックスで、やけに長いカメラである。チョッキのポケットには入りそうも無い。


Ansco VP No2 Leg  カメラを開くときはレンズボードをつまんで上下に、持ち方によっては左右に、コネながら引っ張ると4本の支え棒(ストラット)の先端でパチンと止まる。ここが∞の位置である。ヘリコイドを回すとレンズアセンブリーが約8ミリ繰り出し最短距離2メートルの焦点位置になる。凝っているのはカメラを縦に置くときの支脚である。なんとも説明し難いが大変凝った細工がしてある。カメラを畳むとき、この支脚はレンズボードの下側に格納されるようになっている。写真のようにカメラを縦に置くときの話であるが、レンズボードの下からこの支脚を引き出し、さらに脚の先端についた小さな金具を起こすとカメラが真っ直ぐ立つ高さになる。カメラが長いだけに一本の金具では支柱としての高さが足りないのだ。こんな脚一本にも丁寧な細工がしてある。写真を写す以外に、当時は工芸品としての価値も重要で、細部の仕上げにも力を入れたのだろう。ご丁寧にもカメラを横位置に置くための脚も付いている。
 ここまで観察していてハッと気が付いた。三脚穴がどこにもないのである。そうか、丁寧な造りの脚はどうしても必要だったのだ。シャッターボタンの横にはちゃんとレリーズ穴が備わっている。
 有名なコダックのVEST POCKET KODAK(VPK)は1912年の発売であるから、このAnsco Vest Pocketより数年前の製品ということになる。VPKは大衆層を狙った安価なカメラだが、このAVPは相当な高級機ユーザー志向であったことは作りをみていて容易に想像できる。



【作例】 MODICO Anastigmat 105mm F7.5
f8 1/50sec. Neopan SS(ISO100) 9 Oct. 2001

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