私の学生の頃、1950〜60年代はまだ管球アンプ全盛の時代だった。
1960年代後半になるとマニアの間では再び管球アンプが持てはやされるようになり、電子雑誌はこぞって管球アンプの製作記事を載せるようになった。私もこの頃自作していたトランジスターアンプに疑問を持っていたので管球アンプ再現の誘惑にかられた一人だった。私の場合は、トランジスタの音質が気に食わないのは、自作アンプだからどこかにミスがあるのだろう、くらいに思っていた。
平プレートの直熱3極管の直線性のよさは昔から神話として語り継がれている。この神話にピタリの球が300Bである。大いに魅力のある球だが、少し大げさで、何より球自身が高価なのでとても手が出ない。しかし、今でも300Bは私にとって憧れの球であることに変わりはない。別に視聴してみたわけでもないが、何よりあのルックスのいい球はいい音がしそうだからである。 ともあれ2A3なら製作記事も多く参考になる文献にもこと欠かない。初歩のラジオ、1973年2月号に、これだと思われる製作記事が載ったのでこの回路を参考に自作することにした。この年、出張で渡米した折に仕事と称してニューオリンズにジャズを聴きに行ったことを思い出す。マイルスデイビスを2A3で鳴らして悦に入っていたことを思い出す。 2A3の最大の欠点は高いドライブ電圧が必要なことである。固定バイアス方式でも90ボルト近くのドライブ電圧が必要である。ドライブ段でこれだけの電圧を得るのは容易なことではない。インプットトランス方式が最良だと思われるが、適当なトランスを探すのに骨が折れる。 この頃、トランスのタンゴから2A3PP用に最適な電源トランスMS-360が発売された。それまでの2A3用電源トランスはヒーター電圧2.5ボルトを持っているだけのものが多かった。このタンゴのMS-360はB電圧を2個備えているのが特徴だ。もちろん、A、C電圧用の必要な巻き線は全てそろっている。因みに、Aとは真空管のヒーター用電源、Bはプレートや第二グリッドにかける高圧電源、Cは終段真空管にかけるバイアス用の電源のことである。このトランスの、B電源の1個はパワー管2A3そのもののプレート用電源であり、プッシュプル4本分の2A3を動かすのに十分な容量を持っている。もう一つの別巻線のB電源は前段のドライバー用である。この巻線は330ボルトもあって整流にシリコンダイオードを使えばゆうに400ボルト以上の直流電圧が得られる。ドライバー電圧をプレート電源から分岐して使う従来の回路と違い、これなら余裕をもったドライブ電圧が得られる筈で贅沢な設計が可能である。この電源を使えば位相反転回路もシンプルなカソード結合方式で済むのも大きなメリットだ。この反転方式は有名なウイリアムソン回路に比べて部品点数の少ないのが特徴である。後日談になるが、実はいろいろ発表される製作記事を読んでは回路を変更して視聴してみるということを繰り返していた。結果はこのシンプルな回路が一番好結果が得られ、特に残留雑音の少ない点で優れていた。回路を変えても音質に差はなく(わからない)、S/N(残留雑音)の点だけが段数が少ない分有利だったように思う。2A3PPが成功するか否かは、回路の選択などより電源トランスの選択にかかっている、と今でもまじめにそう思っている。 最初から無帰還アンプを意識していたため、初段はゲインがありすぎても困る。この回路は12AT7というオーディオではあまり使われない球をパラにつないで12AX7相当のゲインを余裕をもって稼いでいる。ドライブは12BH7Aという12AU7Aをほんの少し大きくしたような双三極管を使うことにした。手持ちが多かったせいである。 出来上がったアンプのF特の実測は無帰還で30−17、000Hzくらい、お世辞にもいいとはいえない。当時のメーカー製アンプはDC−100KHzが当たり前だった。この2A3PPアンプは8オーム純抵抗負荷のノンクリップポイントは15ワット近くになる。矩形波を通してみると、これがひどい、12KHzを超えるあたりから出力は正弦波になってしまう。これではどうしようもないと思い、やむなく負帰還をかけることにした。6dbくらいでも電気的特性はかなり改善される。波形を見ながら10dbくらいにして落ち着いた。いい音がしている。しかし、しばらく聴いているうちにジャズボーカルの音に不満がでてきた。NFBを加減しながら聴き比べていくと、どうもNFBが少ないほど声が自然に聞こえる。最初の計画通り思い切ってNFBを外してみる。途端にS/Nが悪くなる。ハムバランサーを調整したり、ヒーターの直流点火を試みたりして残留雑音がスピーカーに耳をくっ付けないと聞こえないくらいにまでに追い込んだ。製作当時はミリバルで測定して標準以上の結果が得られた記憶がある。NFBをかけない裸の特性が問われる勝負どころである。この点NFBアンプは楽である。ほんの少しNFBをかけるだけでS/Nは大幅に改善され少々の調整ミスはカバーしてくれる。あの頃はオッシレーター、ミリバルやシンクロスコープなどを揃えていたが、これらの測定器の方がよほど高いものについた。
数年前に大きなパルス性の音でこのLE8Tのウレタンエッジがスッ飛んで剥がれ落ちてしまった。20年もするとウレタンは朽ちてボロボロになってしまう。BOSEやJBLの初期のスピーカーは軒並みウレタンエッジを使っているので要注意である。JBL純正のエッジが売られているので最近これを買って自分で張り替えてみた。音質は問題なく昔の低音が蘇ってきた。 2A3は当時日本では製造されておらず、カナダ製の球を使った。あるとき、オーディオ雑誌の、名古屋のオーディオ店の広告にRCA製の2A3がペアであるというのを見つけた。出張のチャンスにこの店に出向き、ペアチューブ二組を目の飛び出るような値段で手に入れた。私の2A3アンプはそう出力を必要としないのでA級に近いAB1級、Ip=55maで動作させている。早速本物(?)の2A3を刺し、悦に入ったのも束の間、1時間もしないうちに一本の2A3のプレートが赤熱して火花とともにお釈迦になってしまった。戦前に作られた球は概して真空度が劣化しているものが多い、という記事を何かの雑誌で見たことがある。Ip=20maくらいの深いバイアスにすると何とかもつことがわかったがアイドリングを増やすとまた次の一本がダメになった。結局、元のカナダ製の球に戻してしまった。目の飛び出るような純正2A3はいったい何だったのか。 その後、このアンプは改良することもなくいい音を出していた。一時期、ダンボールの中で眠っていたが、最近、また灯を入れてみるとよく鳴る。電解コンデンサーも製作当時のものだが特に不具合はない。製作してもう30年以上になる。
最近、突然音が出なくなった。調べてみるとヒューズがとんでいた。原因は高圧ブリッジ整流回路のダイオード(10D10)が一本だけイカれていた。とりあえず応急処置としてダイオードを取り替えた。ただ、ジャンクボックスにあったこのダイオードは品名、規格が全くわからない。鳴ってはいるものの精神衛生上好ましくないので、GBPC2506というブリッジをインターネットで購入して交換した。耐圧の一番高かったのがこのブリッジ整流器で、600V-25Aとなっていた。June 2003.
1999年頃にプレートの形が300Bに良く似たロシア製のSovtec 2A3という新型管が発売された。300Bに似た構造を持つ平プレートの2A3だ。電気的スペックは2A3そのものらしい。最近、値段も下がってきたので、30年間ささっていたカナダ製2A3に「ごっ苦労さん」を言って、新型のSovtec 2A3と交代してもらうことにした。差し替えてみると同じ音量できれいな音が出てくる、前の2A3と違ってフィラメントはやけに暗く点いているのかどうかよく見ないとわからない。取りあえず4本ともバイアスの再調整だけはしたが、設定の位置(可変抵抗)は今までとほとんど変らないので電気的静特性は酷似してるのだろう。音の違いはまだよくわからないがルックスだけはグーである。June 2004. |