スーパーベッサ
(レンジファインダー・ベッサ)

Voigtlander BESSA  フォクトレンダーのベッサはツアイスイコンのイコンタと共に戦前のスプリング・カメラを代表する名機である。日本ではスーパーベッサと呼ばれ、また海外ではRFのないベッサも存在するのでRangefinder Bessaが一般的な呼び名である。大変よくできた連動距離計式蛇腹カメラである。
 戦前のフォクトレンダーの製品には三姉妹と呼ばれるプロミネント(6x9cm)、ビルタス(6x4.5cm)やスパーブ(6x6cm判二眼レフ)に代表される重厚なデザインのカメラがあった。悪く言えば癖のある(泥臭い)、見た目にはおよそスマートさに欠けるカメラであるが古風なルックスを評価する向きも多い。
 フォクトレンダーはクラカメファンの間でも好き嫌いのはっきり分かれるメーカーの一つである。とは云え、どのカメラも造りは大変丁寧で頑丈にできていて、ドイツ製品らしい風格が魅力のひとつになっている。戦後になるとそれまでの黒っぽいカメラとはデザインを一変し、どのカメラも流線形のスマートなボディに生れ変り、クローム仕上げを基調にした明るい色のカメラになった。がっちりした精巧さはそのまま受け継がれている。戦前の製品も含めて大抵のカメラは今なお立派に動作する。
 戦前の製品にあってこのスーパーベッサだけは非常にスマートな流線形をしている。レンズやファインダー窓など光学系が必要なカメラにあって、これらを均整の取れたデザインに仕上げているのはライバルのスーパーイコンタを意識したせいかも知れない。6x9cm蛇腹カメラの中では最もスマートなボディであると思っている。ツァイスのスーパーイコンタのユニークなデザインに対して、このベッサは今持って歩いても古さを感じさせない洗練されたルックスである。

Bessa Kelier  レンズは高級機にヘリアとスコパー、普及機にはヘロマーが付けられた。何れも105mmF3.5である。今でもヘリア付きは少し高価であるが他の二つはそれほどでもない。スコパーはテッサーに勝るとも劣らぬ名玉と言われたレンズで、コストパフォーマンスの高いカメラのひとつである。ヘリアーはトリプレットの前群と後郡を貼り合わせにした3群5枚のレンズで当時の米国のパンフによれば、製造時の歩留まりが悪かったらしくその分高価になったとある。柔らかい描写の中にも芯のある画像は今もって人気が高い。スーパーイコンタとベッサは早くからF3.5の明るいレンズを付けていた。他のメーカーでは明るいものでもF3,8止まりで、F4.5の付いたスプリングカメラも少なくない。スプリングカメラとは言えないがプラウベルマキナはI型の後期(1924年)のモデルに早くもAnticomar 100mmF2.9という明るいレンズを付けている。戦前の6x9cm蛇腹カメラの中では最も明るいレンズである。戦後になってCentury GraphicのProfessionalモデルにPlanarとXenotarの80mmF2.8という明るいレンズが搭載された。これらが6x9cm蛇腹カメラにおける最も明るいレンズである。
 シャッターはF.Deckel社のCompur Rapidで、T、B、1-1/400秒をカバーしている。このCompur Rapidは従来のCompurの3枚羽根を5枚にした新型シャッターで1935年に発売され、ベッサは1936年の発売であるから最初からこの新シャッターを装備していた。最高速度が1/250秒から1/400秒にグレードアップしている。
 このシャッターにはベッサ独自のヒンジ(蝶番)されたY2フィルターが付いている。モノクロしかなかった時代の配慮である。今のカラーの時代には役に立たないフィルターだがレンズ保護のつもりなら有っても気にならない。カラー撮影の時は要注意である。着脱可能で外しておくこともでき、またフィルターの交換も可能である。このフィルターはネジ2本で留められているだけで、素人にも簡単に取り外すことができる。このユニークなフィルターのなくなったベッサをよく見かける。Y2フィルターは単調になりやすい空の雲などにコントラストをつける、白黒時代には欠かせないフィルターのひとつだった。

 ベッサやベッサIIはピント合わせに、プロミネントやイーノスで実績のある、ボディにあるノブを回してレンズボードをドライブする方法をとっている。普通、RF機構はレンズボードを何らかのかたちで動かし、その動きをリンクやロッドなどの連結部品を経由してボディ内の距離計に伝えるようにできている。蛇腹カメラは折り畳みが必要なため、この機構は折り畳みカメラの宿命的な難題である。スーパーイコンタは機械的な結合を避けて特殊プリズムによる光学的結合でこの難題を解決している。フォクトレンダーは発想を変えてボディ側からノブの下にあるカムでレンズボードを動かすことでこの難を逃れている。距離計への伝達はボディ内部で行われるので折り畳んでも影響はない。事実、折り畳んだままピントを合わせることができ、開くとレンズはちゃんとピント位置にくるようになっている。Bessa Focusing Dial両者ともこの厄介な連結部品を省くことで長期に安定した測距精度を維持することができるのである。ベッサのフォーカシングノブの直径は34ミリもあり、楽に、スムーズにレンズボードを動かすことができる。ノブの中にはメートル(またはフィート)目盛りが刻まれている。その数値は、1、1.1、1.2、1.4、1.6、1.8、2、2.5、3、4、6、8、15、30、∞と細かく、さらに各数値の中間にも目盛りが刻んである。蛇腹カメラの距離目盛は概してラフなものが多いが、フォクトレンダーは距離計の精度によほど自信があったものと思われる。事実、測距精度は大変高い。戦後のベッサIIも同じ目盛りが使われているが、古いイーノスやプロミネントにはこれほど細かい数値は刻まれていない。

Bessa Body  戦後のベッサIIの陰に隠れてあまり評価されないのがこの戦前ベッサである。外装ひとつをとっても手の込んだ細工が施され、板金ボディでありながら三次元の曲面を持ったユニークなルックスに仕上げられている。普通、蛇腹カメラの軍艦部はもっと部品が多く複雑であるが、ベッサは上の写真でご覧のようにすっきりしていてフォーカシングノブ以外は何もない。わずかに小さなファインダーの切り替えボタンが革張りの隅にポツンと配されている。生産には革貼りだけでも相当手間のかかったことだろう。革貼りの張替えは曲面が多いので素人には無理かも知れない。接着剤がいいのか外装の剥がれた酷いサンプルは見たことがない。

 ベッサIIと大きく違うスペックのひとつに連動距離計が挙げられる。このベッサはピノト合わせが上下像合致式になっている。プロミネントの距離計を受け継いだものだ。この距離計には旧型ライカのように1.5倍程度の倍率がかかっていて、上下像が拡大されて大変合わせやすいのが特徴である。数ある6x9フォルダーの中でもトップクラスの見えと精度を持ったレンジファインダーと言える。2枚のミラーからの光を中央のプリズムに集光する方式でハーフミラーは使われていない。戦後のベッサIIは一つ目になり、二重像合致式にと、それなりに進歩したがファインダーの倍率が極端に低く、測距精度の点で損をしている。蛇腹カメラは速写は無理なので、特に一つ目でなくても不便は感じない。ビューファインダーは距離計とは少し離れたボディの右の方にありモスクワ5型(1950年頃の発売)がこれを真似ている。真似たかどうかはともかく、ベッサとは発売時期に十数年の開きがある。逆ガリレイ式で0.8倍くらいの倍率がかかっている。見やすく明るいファインダーである。直ぐ上のボタンを指で90度回すとセミ判(645)の視野に切り換わる。
 ピントが狂っている場合、軍艦部を開けて調整しなければならないがこれは結構厄介である。上部のボディ革を剥がすため、一度開けたカメラは美しい革張りに皺(しわ)や傷が残るのですぐわかる。修理に出しても跡が残って帰ってくることが多い。また、上部を開けるのは難しく厄介なので、レンズボードを動かすアームを直接曲げてピント調整をしようとしたふしのあるカメラも少なくない。
 ベッサはセミ判兼用機なのでフィルム圧板には凝った細工がしてある。セミ判撮影には赤窓が二つ必要であり、他のカメラ同様圧板には赤窓用の穴が二つ開いている。フォクトレンダーは、6x9撮影時にはこの穴のひとつを閉じてしまおうと妙な細工をしている。このためフィルム圧板のスプリング(通常板バネ)は一箇所にしかなく、しかもセンターから偏った位置に付いている。したがって圧板は、支点の違うシーソーのような動きをする。本来フィルム圧板は画面全体を平均して押さえなければならないため二箇所にスプリングが入っている。このベッサの圧板は一個で支点が偏っているため平均してフィルムを押さえているとは思えない。何台ものサンプルで経験しているが、できたプリントの右下でたまに片ボケを起こすことがあるのはこれが原因ではないかと推測される。このカメラが設計された1936年当時と今ではフィルムの素材やベースの厚みが違うので、その頃、この問題なかったのだろう。

 シャッターレリーズ
Relaese Arm  初期のスプリングカメラにはボディにシャッターレリーズのボタンがなく、先端のリーフシャッター(レンズ部)にあるレリーズレバーを直接指で押して撮影するの普通であった。ファインダーを覗きながらレバーを探っているうちにレンズを直接指で触ってしまうことがある。畳み式カメラでは、90度開いたベッドの先端にあるシャッターをボディ側から動かす遠隔操作が必要であり、これを実現する機構は結構大変である。各社とも独特の工夫をしてこれを解決しているが中には動作の不確実なカメラも存在する。
 ベッサのシャッターレリーズはシャッターボタンではなくベッドの根元に付けられたレリースレバーで行う。ベッドに組み込まれたところがミソで、畳んでも位置関係が変わることがなく、レリーズレバーを安定にコントロールすることができる。カメラを撮影状態に開くとベッドの根元にこのレバーが顔を出し(写真)、畳むと引っ込む仕組みになっている。このレバーは使い勝手がよく、動きはスムーズでボディシャッターよりカメラホールドが楽になる。戦後のベッサIIも同じ構造であるが、内側にレリーズケーブル用の孔が追加されている。国産のパールIV型にも似たようなレリーズ機構を採用している。

 1943年頃のベッサの広告を見ると装着レンズによる価格の差がよくわかる。製造が中止になったBESSAをディスカウントセールしている広告で、ヘロマー付きが標準で49.5(67.5)ドル、スコパー付きが54.5(75)ドル、ヘリアー付きは59.5(80)ドルとある。カッコ内は定価。




ベッサ(レンジファインダー・ベッサ)の仕様
メーカードイツ フォトレンダー社
製造初年1936年
フィルム120ブローニー 6x9cm / 6x4.5cm
ピント合わせボディの大型ノブによりレンズ全群が進退する
レンジファインダー上下像合致式 有効基線長=75mm 2つ目
ファインダー逆ガリレイ式
レンズヘロマー105mmF3.5(3群3枚)最小絞りF22
スコパー105mmF3.5(3群4枚)
ヘリアー105mmF3.5(3群5枚)
シャッターコンパーラピッド T、B、1〜1/400秒
撮影最短距離1メートル(3.5フィート)
フィルム送り赤窓式
大きさ・重さ6x9cm標準 / 700g
Hinged Filter



【使用感】 戦前のカメラなのでシンクロ接点がないのは仕方ないが日本人の手によく馴染む、ホールドしやすい実用的なスプリングカメラである。ピントの合わせやすさは天下一品でこれに勝るレンジファインダーは6x9cmスプリングカメラの中には見当たらない。ボディのレリ−ズレバーは大変使い勝手がよく動きがスムーズで動作も確実である。レンズはどれも優秀でヘリアでなければと思ったことは一度もない。ただ、二重撮影防止機構がないので、撮影したら直ぐフィルムを巻いておく癖をつけておかないと画面がダブったり空写しをしてしまうので注意が必要だ。


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