スーパーイコンタ(C)
スプリングカメラの最高傑作


Super Ikonta C
Super Ikonta II
 クラシックカメラ・ファンなら一度は耳にしたことがある、スプリングカメラの最高傑作がスーパーイコンタである。独逸ツアイスイコン社の製品。

 スプリングカメラとはカメラのボディのボタンを押すことにより、スプリングの力で自動起立して撮影状態に組上がる折り畳み式蛇腹カメラのことである。このスプリングカメラという言葉はよく和製英語のように言われるが戦前からドイツでは「Spring Kamera」としてカタログなどに紹介されている。

 カメラを開くと、巨大なレンズと独特の招きねこがこのカメラのデザインをユニークなものにしている。スプリングカメラの最高傑作と言われただけあって堂々たる風格である。
 スーパーイコンタには様々な姉妹機がある。日本では120フィルムの撮影サイズ別に、6x4.5cm判をスーパーセミイコンタ、6x6cm判をスーパーシックスそして6x9cm判を単にスーパーイコンタ(写真)と呼んでいる。さらに年代順に細かくI, II, III, IV, V 型に分類されている。IV, V 型が戦後のモデルである。米国では画面サイズの違いによって各々スーパーイコンタ A、B、C型、116フィルムを使うモデルをD型と呼んでいる。本家のドイツでは532、532/16、532/2のように/(スラッシュ)のあとの数字によって区別している。ちなみにスラッシュの付かないものは6x4.5cm判、/16は6x6cm判、/2は6x9cm判の画面サイズを意味している。532は製品コードで初期型が530、戦前の後期が531、戦後の最終モデルが532となり、これらの製品コードはボディの皮シボに刻印されている。写真は1937年発売のII型。


 スーパーイコンタは1934年(昭和9年)に初期型が発売されて以来、戦中戦後の一時期を除いて1957年(昭和32年)まで生産が続けられたロングライフの高級カメラである。日本流の分類のしかたは年代が細かくわかるが、この間、若干のマイナーチェンジはあったものの基本的な性能は初期の製品(II型)で完成されている。強いてその変化を挙げれば、ボディの飾りの変化、ビューファインダーの改良、レンズのコーティング、シャッターの変遷(最高速やシンクロ接点の追加)くらいのものである。

 スーパーイコンタのレンズ
 初期型を除いて殆どがTessar 105mm F3.5 である。戦前のモデルは Carl Zeiss Jena Tessar(イエナ、東独の地名)、戦後のIV、V型にはコーティングされた Zeiss Opton Tessar(オプトン、西独の地名)が付いている。最終のV型は最後の頃にごく少量の Carl Zeiss Tessar の付いたモデルが生産された。最短撮影距離は1.5メートル。シャッターはI型と呼ばれる初期モデルには最高速が1/250秒のAuto Compur、II型以降は1/400秒のCompur Rapid、戦後は1/500秒のSynchro Compurが代表的なものである。

 スーパーイコンタの連動機構
Cail prism  初期型から一貫して採用されている 楔(くさび)型回転プリズムによるピント合わせ機構(ドレー・カイルプリズム方式)は大変正確で狂いの少ないのが特徴である。
 ピント合わせは前玉回転という方式で、最短撮影距離のとき前玉だけが約2ミリ前に繰り出す。シャッターハウジングには「招きねこ」の手のような独特のピント機構が付いている。カメラを開いたとき、この「手」を起こしてやらないとピント合せができない。この「手」の中には複雑なギアトレインと2枚の楔状円形プリズムがあり、ピントノブを回すと前玉が繰り出すと同時にギアを介してこの2枚のプリズムをドライブしている。2枚のプリズムは夫々逆に回転するようになっている。すなわち、前玉の僅か2mmの繰り出し量をギアを介して円形プリズムに伝え、入射する光をボディのRF用受光窓に導いている。このプリズムを通った光はボディ内にある横に長い棒状プリズムによってアイピースに導かれ、もうひとつの窓から真っ直ぐ入ってきた光と重なって二重像が形成される仕組みである。この連動機構にはカメラボディとの間に機械的な連結が一切無く、光学的な結合だけで目的を達成している。従ってネジの弛み、部品の腐食や磨耗による劣化がなく、下手に分解しない限り工場出荷時のピント精度をいつまでも維持していることは容易に想像できる。この種のカメラの無限遠付近のピント合わせはラフなものが多いが、このスーパーイコンタの距離計は∞と300メートルを十分識別できる分解能を持っている。距離計には縮小倍率がかかっていないので見やすく微量なピント合せも楽である。105mmF3.5、最短距離1.5メートルというレンズ性能には十分すぎる連動距離計といえる。折り畳み式カメラはこの連動機構が厄介な存在で各社とも独特の工夫を凝らしたカムやレバー、さらにはリンクを用いてたメカニカルな結合で連動を行っている。そのためメカのガタやあそびからバックラッシュが発生し、ピント合せが不安定になる機種も多い。二重像を∞側からと最短距離から合わせた時、微妙にピント位置の違うカメラも存在する。もっとも、スプリングカメラの場合、F11やF16に絞って撮ることが多く被写界深度に距離計の誤差は吸収されてしまうのであまり神経質になることはないのかも知れない。カメラを畳むときは招きねこの手を元に戻してやる必要がある。。
 ドレー・カイル方式を採用している中判スプリングカメラは、エンサイン16-20モスクワ(スーパーイコンタのコピー)だけである。


 セミ判兼用機
645 Frame  スーパーイコンタ(C)はセミ判16枚の撮影も可能な兼用機である。セミ判として使うときは予め写真のような専用のセミ判枠をフィルムチェンバーにセットしてからフィルムを装填する。当然のことながら途中でのサイズ切換はできない。アルバダ式のビューファンダーには最初からセミ判用のフレームが入っていて、これが6x9cm判撮影のときにはうるさいこともある。何も、こんな6x9cmの高級カメラでセミ判を撮ることもないが、フィルムが高かった時代にはユーザーを引き付けるスペックのひとつだったに違いない。
 カメラの後部には赤窓が二つあり、セミ判のときも6x9cmサイズ用の数字(撮影番号)を使ってフィルム送りをする。昔、120ブローニーの裏紙にはセミ判用の撮影番号がなかったので、この赤窓二つ式のフィルム送りは他のカメラにもよく見られる方式である。
 フィルムを詰めたあと、先ず左の窓に1番が出るまでフィルムを巻く、これが1枚目。2枚目はこの番号(1)が右の窓に移るまで巻く、3枚目は2番を左の窓に出し、次はこれを右に移す、これを繰り返して8番が右の窓に来たときが最後のカット(16枚目)になる。

 フィルターとフード
 戦後のIV、V型には前玉の外周リングに40.5mmのフードやフィルターが装着できるローレットが刻まれている。一見飾りのように見える外周のギザだがここに現行のフードやフィルターが装着できることはあまり知られていない。ピント合せは前玉が回転するのでフード、フィルターも一緒に回ることになる。

 二重露光防止機能
 フィルムを巻かないと次のシャッターがレリーズできない仕掛けで、35ミリカメラにはごく当たり前の機能として備わっている。赤窓式のカメラではフィルムを無駄にすることがなくありがたい機能のひとつである。これがないと二重写しをしたり、空白のカットを作って本来8枚撮りの筈が2、3枚撮りになってしまうことも珍しくない。赤窓式のカメラには是非欲しい機能のひとつである。スーパーイコンタにはごく初期のモデルを除いて全て備わっている。

 自動起立
 スプリングの力で自動起立するといっても、強力なバネで組みあがってしまうのは問題である。蛇腹が急激に膨らむと一瞬カメラの内部が負圧になりフィルムが前に引っ張られて平面性を損なうからである。このためフォクトレンダーのプロミネトは2ヶ所に空気抜きの孔を設けている。スーパーイコンタやベッサはこの点が考慮されているためボタンを押すとベッドが少し飛び出すだけで、後は手を添えてやると僅かな力でヌルっと組み上がるように工夫されている。初期のイコンタやネッターのタスキに見られる溝は直線であるが、スーパーイコンタのそれは曲線に変わっている。ヌルっと組み上がるための改良である。




スーパーイコンタV型(532/2)の主な仕様
メーカー西ドイツ ツァイスイコン社
使用フィルムブローニー120型で8枚撮り、セミ判16枚撮り兼用機
大きさ・重さ120x160x130mm(撮影時)890g
レンズTESSAR 105mm F3.5 カールツァイスまたはオプトン
最小絞りはF22で、戦後型はコーティングあり
シャッターシンクロコンパーB、1〜1/500秒 M、X接点付き
ファインダー二つ目式で距離計とは別に折畳式アルバダファインダーがある
距離計二重像合致式
機械的結合がないので正確で堅牢
有効基線長は65mm
フィルム送り赤窓式。初期型の一部を除いて二重露光防止装置がついている
Finder eye peace
ファンダーのアイピース

Finder view image


スーパーイコンタ(6x9cm)105mm Carl Zeiss Tessar付の変化
年代レンズシャッター特徴
1934IF4.5(Jena)
F3.8(Jena)
Auto Compur T,B,1-1/250
Auto Compur T,B,1-1/250
ボディシャッターなし
二重撮影防止機構無し
赤窓のカバー無し
透視ファインダー
1938IIF4.5(Jena)
F3.8(Jena)
F3.5(Jena)
Auto Compur T,B,1-1/250
Auto Compur T,B,1-1/250
Auto Compur T,B,1-1/250
Compur Rupid T,B,1-1/400
ボディシャッター
二重撮影防止装置
アルバダファインダー
赤窓にカバー付き
1938IIIF4.5(Jena)
F3.5(Jena)
Auto Compur T,B,1-1/250
Auto Compur T,B,1-1/250
Compur Rupid T,B,1-1/400
巻き取りカバーがクローム
仕上げになりボディにクロ
ームのラインが入る 
1950IVF3.5(Opton)Synchro Compur B,1-1/500Carl Zeiss Opton
レンズにコーティング
1953VF3.5(Opton)
 
Synchro Compur B,1-1/500
 
MX切換接点
1955VF3.5
 
Synchro Compur B,1-1/500
 
MX切換接点
1957   6x9cm判の製造中止



【使用感】
 スプリングカメラの魅力は何といってもそのコンパクトさにある。すなわち携帯性のいいことで何処にでも持って行ける魅力、また折り畳んだときの形状はどんなカバンにも入る強みがある。数ある蛇腹カメラの中でもこのスーパーイコンタは期待通りの性能を発揮してくれる逸品である。

 どのスプリングカメラもそうだが、35ミリカメラのようにピントを合わせながらシャッターを押すという速写性は期待しない方がいい。また、6x9cmスプリングカメラでカメラホールドのいいものは皆無と思った方がいい。
 ピント合わせは右手でも左手でも構わないがシャッターレリーズのときは一度持ち直してボディをしっかりホールドしてから撮影することが必要だ。シャッターは左手で押すのでベッドの部分は支えにくく、招きねこの根本あたりを右手の人さし指と中指をしっかり当ててホールドするのが自然かも知れない。縦位置の撮影は左手親指でシャッターが押せるので比較的ホールドはしやすい。何れにせよ、各人指の長い短いもあり工夫が必要で普段からカメラホールドを練習して慣れておく必要がある。よくあることだが三脚を使うと見違えるほどシャープなネガが得られることがある。何となくあまい、すっきりしない、などをカメラやレンズのせいにしてしまうのはかわいそうだ。こんな場合は大抵カメラブレに原因がある。明らかにカメラブレと分かるカットはともかく、肉眼ではわからない微妙なブレを起こしていることもあり、何となくあまく見えるものである。Super Ikonta View Finder三脚が使えないときはなるべく高速シャッターを使うように心がけるべきである。Synchro Compurの1/500秒はバネが強く滅多に使わない。チャージするとき指が痛いからだ。三脚穴は縦、横位置の撮影用にベッドとボディ下部に設けられている。ボディ下部の方は直径19ミリ、厚さ2ミリくらいの円盤の中にあり雲台との座りが悪いので20ミリくらいの穴の開いたリングを用意しておくといい。
 ビューファインダーは折畳式で蛇腹を開くと自動的に起立する。凝ったつくりであるが光学系は見やすいとは言えない。特に逆光では使いにくい。初期のI型の透視ファインダーの方がすっきりしていて実用的だ。スーパーイコンタのファインダーは全てアイピースがフリーに動くため、メガネをかけた人には使いにくいかも知れない。メガネがアイピースを押して視野が逃げてしまうからである。


【購入のポイント】
Super Ikonta C  最終機のV型が最も人気が高く、中でも Carl Zeiss Tessar の付いたものは数が少なくOpton Tessar付きより高価である。II型以降のファインダーの接眼部は透明のセルロイドで出来ているので、この部分が黄色く変色したり、拭き傷が酷いものが多く、像がほとんど見えないものもあるので要注意。今となっては綺麗なものは望めないが、この部分は透明のフィルムを使って自作し入れかえることができる。レンズボードの固定メカニズムは戦前のモデルの方がはるかにがっちりできている。その意味でII型やIII型を好む向きも多い。戦後のモデルは材質のせいか、戦前のものよりレンズボードの固定機構が弱く、組み上がった状態でもレンズボードがグラつくものもある。ピント機構は全モデルとも狂う余地が無くフィルムを通せば今でもシャープな画像が得られる。アクセサリーシューがないので、シンクロ接点付きのIV、V型は市販のシュー付きグリップを使うと簡単にストロボ撮影が可能である。
 シャッターに要注意
 Synchro Compur付きはスロースピードの粘りに要注意。スーパーイコンタに限らずクラシックカメラは真冬の寒いときに買うのが賢明である。特に、作られて50年も経っているSynchro Compurは真夏の暑い時には元気でも寒くなるとスローの調子がでないものもある。CompurやCompur Rapidはもっと古いにもかかわらずスローの粘りは殆どないので、たぶんに油(グリース)のせいではないかと想像している。この現象は1〜1/10秒のクロックワーク(スローガバナー)が働くスピードのときだけに見られる現象で、これらのスピードを使わないときは問題無く撮影できる。15年くらい前にSynchro Compurをオーバーホールしたことがある。その後このSynchro Compurは調子よく動いているが、50年の年月にはほど遠く油のせいかどうかはわからない。

 現在6x9cm判カメラは市場には殆どないと言ってよく、有っても大きく重く高いカメラになり手軽に買って使うわけにはいかない。スーパーイコンタは40年以上前に製造の終わったカメラであるが、中古でも十分実用機として機能する数少ないカメラである。
 スーパーイコンタはクラシックカメラの中では台数も多く、珍品とは言えないが今なお実用機としての価値からか高値で取り引きされている機種もある。





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