モスクワ 5型

スーパーイコンタの優秀なコピー


camera photo  旧ソビエトのカメラは都市名を冠したカメラが多い。この6x9cmスプリングカメラは「モスクワ」、当時最高傑作と誉高い旧西独ツアイスイコン社のスーパー・イコンタ(C)をそっくりコピーしたシリーズもの。モスクワの初期型は何から何までスーパーイコンタそっくり、全くのデッドコピーである。

 このモスクワ5型はモスクワ系列の最終機で、1959年(昭和34年)までモスクワ近郊の"KMZ" (krasnogorsky Mehanichesky Zavod - the Krasnogorsk mechanical factory)で生産され、スーパーイコンタの生産終了と時を同じくしてこちらもデイスコンとなっている。マイナーな変更点を除いてスーパーイコンタのコピーであることに変わりはない。
 デッドコピーに徹して来たシリーズもこの5型になってやっと独自の外観デザインを採用した。進歩したのは軍艦部で金属製の1枚のトップカバーになった。ビューファインダーは、軍艦部内部にある二重像用の棒プリズムが邪魔するので、中央にはなく右端に追いやられた。そのため近距離ではかなりのパララックスがある。ビューファインダーは、スーパーイコンタでは視野の右側が少こし「招き猫(ドレー&カイルプリズム)」でケられるがこのモスクワ5は左側がケられる。逆ガリレイ型の視野は0.7倍程度の倍率がかかっているが明るく見やすい方である。すぐ上の軍艦部のツマミで6x6、6x9の視野の切り替えが可能。大きさ、重さはスーパーイコンタと殆ど変わらない。

a part of camera photo  初期型との主な相違点は、レンズがインダスター23から24になり改良されているようだ。中央部の起立式枠型ビューファインダーを止めて軍艦部右側に内蔵させている。直ぐ上に6x6cm用の視野切替えツマミが置かれている。フィルム切替はセミ判(645)をやめて6x6cm判になった。当時フィルムは高価なので一本のブローニーフィルムでより多くのカットが撮影できるようにするためのサービスである。フィルム装填前に中枠を入れ、赤窓とビューファインダーを切替えれば66判カメラに早変わりする。果たしてどれだけ66判カメラとして使われたかは疑問だが。
 ピント合わせ用のアイピースの視野はスーパーイコンタより狭くなったが同じ構造のせいだろう、二重像は分離がよく合わせやすい。
 フィルム巻き上げツマミがスマートになり二重撮影防止の動作も確実である。このツマミには当時としては新しいフィルムインジケーター(メモ用)がつけられている。
 何故か裏蓋はヒンジ式ではなく脱着式となっている。開閉に際して脱落に十分注意しなくてはならない。シンクロ接点はあるがストロボシューを持たないのは残念である。とにかく丈夫なカメラで今でも十分実用になる。


モスクワ5の主な仕様
メーカーKMZ(krasnogorsky Mehanichesky Zavod
- the Krasnogorsk mechanical factory)
使用フィルムブローニー120型 6x9cm判8枚撮り 中枠使用で6x6cm判撮影可
レンズインダスター24 105mm F3.5 (テッサータイプ)
最小絞りF32 コーティングあり
シャッターモーメント24C B、1〜1/250秒 X接点付き セルフ内蔵
ファインダー逆ガリレイ式オプチカルファインダー 6x6cm判視野切替えあり
距離計ドレイ・カイルプリズムによる二重像合致式
フィルム送り赤窓式 二重露光防止装置付き
大きさ・重さ166x97x53mm(折たたみ時)、849g


【購入のポイント】
 スーパーイコンタに比べ、モスクワ5型は軍艦部がモダンになり価格も安いので使ってみたくなるカメラのひとつ。スーパーイコンタほどの数はないが市場には時々現れる。
 スーパーイコンタのビューファインダーに不満を持つ向きにはお薦めのカメラ。写りはこのクラスとしては標準以上、なかなか優秀である。タスキ部分は頑丈で強度は十分だが、精度が要求されるカイルプリズム部は内部歯車類の機械工作がお粗末で独イコンタの精度にはとても及ばない。このため品定めに際しては、ピントダイアルの回転が軽くガタなくスムーズに廻るかどうかを十分にチェックする必要がある。この「招き猫」部分の分解調整や清掃は不可能ではないが相当の手間を覚悟しなくてはならないので分解しない方が無難。赤窓は6x6、6x9の切り替えが可能でこれは裏蓋の内部で行う。使わない方の窓は開かない構造になっている。

【旧ソビエト製カメラ雑感】
 鉄のカーテンの向こうの国だったのかコピーのカメラが多い。ホリゾントに代表されるパノラマカメラを除けば殆どは旧西側と言われた国のカメラのコピー、またはそれらを進歩させたものと言ってもいい。一見してオリジナルと見間違うカメラも多い。ライツ、ツァイス・イコン、フォクトレンダー、ハッセル、ミノックス、ミノルタなど。もっとも西側でも戦時中は国策でライカをコピーしたり、戦後はコピーライカからスタートしたメーカーも少なくない。
 共通して言える事は、どのカメラもまず頑丈そのものである。次にボディの皮シボはどれも人工皮革であるが丈夫で張り付きがよく、剥がれたり傷の付いたカメラを見たことがない。中にはボディの金属表面に直接シボを焼付けてそれとなく皮シボに見せたものまである。ボディ外装に関しては優れたノウハウがあったに違いない。
 全くのデッドコピーであっても工作精度はどのカメラもオリジナルには及ばない。先ずノブやツマミは操作に大変力を要する、回転が重いのである。油やグリースの質だけでは済まされない工作精度の問題もあるのだろう。メカのデッドコピーであるハード面は完璧に真似ができても、設計、製造、品質管理、その他の過程に於ける技術やノウハウなどソフト面のコピーはできなかったところに旧ソビエト製カメラ共通の特徴が現れている。コピーされたボディは必ずしもオリジナルと100パーセント互換性が保たれているとは限らない。たとえばフェドやゾルキーに装着されているレンズはライカには問題なく使えるが、ライカ型スクリューマウントレンズの一部はフェドやゾルキーには使えないものもある。
 レンズについてもコピーが多い。それほどたくさんのカメラ(レンズ)を試したわけではないが写りは概ね良好である。レンズの描写に関しては好き嫌いもあるが欠点の目立つレンズは少ないようだ。

 【6x9cmの画面サイズ】
 ブローニーフィルムの縦幅は正確に90mmである。多くのドイツ製蛇腹カメラの場合、実際フィルムに露光されたサイズは実測で56mmx87mmが多い。フィルムの平面性を考えた場合フィルムチェンバーの枠は上下2mmくらいの余裕は必要なので縦の56mmは妥当な値である。縦横比を1:1.5として計算すると横幅は84mmになる。この横幅の差3mm(87-84=3)何処からくるのか。横幅を87mmとした場合の縦の幅は58mmという計算になる。これはチェンバー枠の上下の余裕を1mmとした場合の値である。チェンバー枠の構造によっては無限遠の方が近距離より広く写る場合もあるが、イコンタでは殆ど同じで違いはない。
 着脱できる69フィルムホルダーの場合87mmあるものは殆どなく、中には80mmしかないものもある。

 最近は、暗室作業が面倒なのでPCのスキャナーで取り込むことが多い。EPSONのフィルムスキャナーに付いてくるキャリアーは57x85mmなのでイコンタやこのモスクワで撮影したフィルムは左右が若干マスクされ、上下に少こし未露光部分がはみだしてくる。6x9cm判にも当然ISOの規格がある筈だが調べてみないのでわからない。これら数ミリの違いを気にしているわけではない。無視できる値である。私は1:1.5の比率が好きなのでこの値をラフにキープしていればいいのである。



【作 例】  ジャズライブ(大野雄二ピアノトリオ) F5.6 1/100sec Neopan SS ストロボ使用(23 Oct 2004)

sample photo


Home | Thumbnail | Frame |