ツァイスネッター(Zeiss Nettar)は1934年ころイコンタの廉価版として発売されたカメラである。ネッターにはいろいろなフィルムと露光サイズの違うモデルがあった。このうちセミ判のこのモデル515は、日本ではセミネッターと呼ばれていた。写真のネッター515はセミ判16枚撮りの、ひとことで言えばツァイスイコンの一番シンプルなスプリングカメラである。廉価版といっても立派に中判写真を撮ることができる。120フィルムが使用できるので今でもセミ判コンパクトカメラとして重宝な存在だ。 レンズは Nettar Anastigmat 7.5cm F4.5、3群3枚のトリプレットである。戦前のカメラなのでコーティングはない。最小絞りはF32。
シャッターはクリオ(KLIO)、スピードは、T、B、1、2、5、10、25、50、100、175と表示されている、セルフタイマー付き。イコンタのコンパーと比べると少し貧弱に見えるクリオだが今でも軽快に動作している。不思議なシャッタースピード クリオはどうして最高速の表示を175(1/175秒)にしたのだろう。普通ならその下のスピードが100(1/100秒)からみて200(1/200秒)にしたかった筈だ。リーフシャッターで高速を出すのは難しい。価格を下げるため廉価版のシャッターを作ったが、クリオはどうしても1/200秒をクリアできなかった、そこで正直に安定に得られる1/175秒を最高速のスピードにしたのだろう。ドイツ人の実直さと私は思っている。その意味でこの1/175秒はかなり正確な値に違いない。 焦点合わせは目測による前玉回転式、最短撮影距離は1.2メートル。ファインダーは起立式の逆ガリレイ型で、0.7倍くらいの度が入っている。透視型のこのファインダーはスーパーイコンタのアルバダ式よりすっきり見えて好感が持てる。スプリングカメラのファインダーは概して貧弱なものが多く正確なフレーミングは望めない。この透視式で十分である。
フィルム送りは赤窓式でイコンタにあるような二重撮影防止機構はこのネッターには付いていない。この頃の120フィルムの裏紙にはセミ判(645)用の番号が印刷されていなかったので、6x9cm用の番号を利用していた。赤窓が二つあり6x9cm用の数字(フィルム番号)を使ってフィルム送りをする苦肉の策である。フィルムを詰めたあと、左の窓に1番が出るまでノブを巻いて1枚目を出す。二枚目はノブを巻いてこの番号(1)を右の窓に移す、3枚目は2番が左の窓に出てくるまでフィルムを巻く、次はこれを右に移す、これを繰り返して8番が右の窓に来たときが最後のカット(16枚目)になる。面倒のようだがやってみると意外に簡単で間違うことはない。それよりフィルムを巻き忘れて二重写しにならないように気をつけることの方が肝心である。つくりはしっかりしていてどこも壊れるところのない印象を受けるカメラである。重さは430グラム、セミ判の中ではもっともコンパクトな部類に入るだろう。このネッターレンズは描写が自然で画面隅々までよく写る。この手のセミ判カメラでは、どうしても縦位置(縦長)撮影が多くなってしまうのは機構上仕方がないだろう。作例は、逆光の部分に少しフレアが見られる。 ネッター515/2
515/2は6x9cm用である。レンズはNettar Anastigmat 10.5cm F4.5、前玉回転式で最短撮影は1.5メートル。目測式なので常焦点マークが10メートル付近とF11とF16の間にある。カメラを常焦点にセットしておくと被写界深度を利用して5メートルから∞までの範囲でピントが合うことになる。目測が面倒なときはこういう撮り方もできる。 シャッターはイコンタと同じCompurで B、1 - 1/250秒が使える。このカメラも上のセミネッターと同じく壊れるところがどこにも無いようなカメラである。写真のモデルは数あるネッターうちでも1938年頃に発売された後期のものである。これより前のモデルには反射型ファインダーが付いているが、このモデルでは省略されている。反射型ファインダーはオプションで取り付け可能で、そのための溝がレンズボードに細工されている。 よく見ると初期のイコンタとはレンズが違うくらいで、ボディはイコンタそのものである。二重撮影防止機構は廉価版に徹してかどのモデルにも付いていない。重量は690グラム、軽くても作りは大変しっかりしている。シンプルな起立式のオプチカルビューファインダーが付いている。数あるツァイスイコンの蛇腹カメラの中では、このファインダーが最も見やすく優れていると思う。山行きにはこれ一台あればいい写真が撮れそうである。
【作 例】 あじさい セミネッター(Nettar515) F8 1/50 Neopan SS ![]() |