アサヒペンタックスSPシリーズ
古さを感じない最高級一眼レフ!



 1960年、当時の西ドイツのフォトキナ(2年に1回開かれる世界最大のカメラフェア)にアサヒペンタックス・スポットマチックの試作品が出品された。

 この時代にTTLスポット測光ができる画期的な機能を持つこの一眼レフは世界中のカメラ関係者から注目された。TTL(Through The Taking Lens、撮影レンズを通して測光する)は、レンズを交換しても、また露出補正が必要な接写や顕微鏡撮影など、どんな状況にも正確に露出が得られる機能のことである。現在のカメラではごく当たり前の露出方式になったが、40年以上前のその時代には画期的な露出方式であった。それまでのカメラは、露出計が内蔵されていても、レンズとは別の位置にある受光部(セレンやCDS)から光を検出するものだった。受光角の問題から標準レンズの平均的な被写体には有効でも、レンズを交換したり、撮影距離が変わったとき厳密な露出は期待できるものではなかった。スポット測光とは非常に狭い範囲(例えば受光角1〜2度)の光を計るもので、被写体のごく1部分の光を正確に計ることができる露出方式である。例えば、女性ポートレーでは被写体の顔と背景では大きく明るさが異なることがある(逆光はその顕著な例)。女性の肌をスポット測光すれば、背景の明るさに関係なく適正な露出が得られる。平均測光では、こんな場合プラス補正という面倒な操作をしないと人物はきれいに写らない。
 1960年といえばまだライカM3やM2が華やかな現役の頃で、この露出システムがいかに進んでいたかを窺い知ることができる。

Pentax SP
 製品化され市場に現われたのはフォトキナの発表から4年経った1964年である。まだライカはM3、M2が主流で巻き戻しがクランクに変わったM4はこの3年後、1967年の発売である。製品化されたアサヒペンタックスSPはスポットではなく平均測光になっていた。しかしボディにはSPOTMATICの文字がしっかり刻まれていた。あまりにも注目度が高かったためメーカーもこのロゴだけは外せなかったのかも知れない。実際の撮影ではスポット測光は使い難く、どちらかといえばプロ好みの仕様であり、一般撮影には平均測光の方が無難である。大衆をターゲットにしたメーカーの賢い選択だったに違いない。このカメラはたちまち人気機種になり、とにかくよく売れた。「ボーエンだよ、ワイドだよ」とまんがのオジさんが出てくるテレビのコマーシャルに記憶のある方も多いことだろう。発売価格は50mmF1.4付で51,000円。

 アサヒペンッタクスのレンズマウントはM42(42mm径、1mmピッチ)ペンタックス・プラクチカマウントと呼ばれるスクリューマウントである。アサヒペンタックスSPにはスーパータクマー50mmF1.4(6群8枚)、または55mmF1.8(5群6枚)の単焦点レンズが標準レンズとして付いていた。変形ガウス型と呼ばれる高級設計のレンズで、F1.4やF1.8という開放F値は室内でフラッシュがなくてもよく写る明るさである。今のズームコンパクトカメラのように何でもフラッシュと違って、ノーフラッシュ撮影は立体感のある、背景をボカした写真が撮れることを知っておいても損ははない。ズームレンズが主体の今のカメラは建物などが曲がって写ることも珍しくない。単焦点レンズは歪曲が少なく建物の曲りなどは殆ど気にしなくてすむ。最近では、高感度高品質のフィルムが開発され、カメラメーカーもごく一部の高級機専用のレンズを除いて単焦点レンズは作らなくなった。価格の安いこの頃の大口径の中古単焦点レンズはねらい目である。

 ED Romney(エド・ロムニー、写真家)のPentax Camera Repairという本には、カメラ内部はメーター、スロータイマーなど重要な部分はよくシールドされていて故障したりこれらを交換することは滅多にない、巻き上げ機構は特に丈夫にできているとあり、ペンタックスSPの中古の大半は電池の交換と外装のクリーニングで済んでしまうようだ。最新の電子式カメラは電子部品の寿命でカメラの寿命も決まり、何でもカメラ任せのオートマチックになっている点が写真をつまらなくしている。スクリューマウンドペンタックスはライカ同様オーバーホールすれば何時までも使えるメカ式マニュアルカメラであり、車に例えればDOHC、ツインカムの5速マニュアルミッション仕様のスポーツカーに匹敵する、と評している。

 ボディは見た目より堅牢で中古でも故障の少ないよく働くカメラである。メーターの作動不良は電池(室)の腐食によるもので、電池を取り替えるとピンピン動き出すものが多い。電池はコインで丸い蓋を回して交換するが、ここが腐食すると手がつけられない、蓋がさび付いて底板と一体になってしまうのだ。こうなったらメーターは諦めて純マニュアルカメラとして使うしか手がない。これより前のS2やSVモデルでは、メーターがなくても不便を感じることなく写真を撮っていたことを思い出す。
 シャッターは布引横走フォーカルプレーンで、全てメカ式、電子制御は一切採用されていない。スピードはB、1 - 1/1000秒、ごく標準的な系列、中古でも正確に動作する。よくあるスローの粘りなどは見たことがない。フィルム感度の設定はISO20〜1600(表示はASA)でスピードダイアルを持ち上げてセットする。


 アサヒペンタックスSPF
 開放測光ができるモデルSPFが1973年に発売された。それまでのSPは測光の際に絞込みスイッチの押し上げ(絞込み測光)が必要だったが、SPFは新レンズを使えばスイッチの操作なしに開放で測光できるようになった。それまでのレンズは絞込み測光でSPと同じように使うことができる。開放測光はメーターを追針するだけで露出に余計な操作が不要になり撮影の操作性が大きく向上した。
 ファインダーを覗いたまま、メータがセンターに来るように絞りかシャッタースピードダイヤルを回してやればいい。

 アサヒペンタックスはよく売れたカメラである。したがって中古市場には物が豊富で価格も安定している。交換レンズやアクセサリーは種類、量ともに豊富である。僅か数千円で高性能のワイドや望遠レンズが手に入ることも珍しくない。写真上はSPFブラックボディにタクマー200mmF3.5をつけたところ。このレンズはSP用なので絞込み測光で撮影できる。重いレンズで三脚座があり、丸いノブはボディの水平を出すための調整用。
 標準のSMC Takumar 50mmF1.4に加えて同35mmF2、同135mmF2.5を現用機としてよく使うが、マニュアル機は「余計なお世話機能」がないので思うようにコントロールできる。信頼できる名機だ。

 アクセサリーの豊富さでもこのカメラの右にでるものはない。写真はアングルファインダー。アイピース(覗き窓)の枠に取り付けて使うアタッチ型アクセサリー。上下左右に回転できるため、どの方向からでも覗くことができる。左右が逆像になる。アイレベルで撮影し難い被写体にはあれば便利なアクセサリーのひとつである。



Pentax SP、SPIIPentax SPF
LR41(SR41)を使用LR44(SR44)を使用

 TTL内蔵露出計用の水銀電池は環境問題から現在は製造されていない。メーカーは最新の小さな電池が使えるアダプターを安く提供しているので、中古を買っても電池の心配をすることはない。
 このアダプターは単純なプラスチックのリングで、ボタン電池の外周にはめて水銀電池との大きさをそろえているだけのものである。モデルによって電池の大きさが違うので、ペンタックスSP、SPIIの水銀電池H-Bタイプ用と、SPFのH-D用が用意されている。それぞれLR41、LR44電池が使えるようになっている。他の水銀電池を使う古いカメラにも朗報でクラカメファンにとっては大いに助かる部品である。
 新旧電池の電圧差を気にする人もいるが、メーター回路は全体が電気ブリッジになっており、このブリッジは供給電圧が少々変動してもバランスが崩れることがないのが特徴である。あまり気にすることはない。電池というものは使っているうちに電圧が下がってくるものである。ある程度まで電圧が下がっても正確に使えるのはこのブリッジ回路のおかげである。




 ところでアサヒフレックスやアサヒペンタックスには頭に六角形のプリズムを表したお馴染みのマークがあったのをご記憶だろうか。マークの中にはAOCOの文字が入っている。Asahi Optical Co. の頭文字である。このマークは1979年、カメラの名前がアサヒペンタックスからペンタックスに変わったMV1型からなくなっている。1976年発売のMEがこのマークの付いた最後のモデルのようだ。



アサヒペンタックス M42マウントカメラの変遷
(朝日ソノラマ社刊「クラシックカメラ専科」から抜粋)
1957 AP ペンタプリズム搭載、世界初のクイックリターンミラーの一眼レフ。シャッターは2軸式で1/500秒まで。APは分類のため後からつけられた名前。
1958 K 半自動絞りになり、シャッターは2軸式だが最高速度が1/1000秒になる。
1959 S2 シャッターが倍数系列の1軸式不回転ダイアルになるが最高速は1/500秒まで。量産され価格が大幅に値下げされた。
1961 S3 完全自動絞りになり、シャッターは1/1000秒まで。ペンタックスメーターが連動可能となる。
1962 SV セルフタイマー内蔵。フィルムカウターが自動復元式になる。
1962 S2スーパー ベストセラーS2の改良機。完全自動絞り、フィルムカウター自動復元式、最高速が1/1000秒になる。
1964 SP 絞込み平均測光TTL方式になる。世界の話題をさらったモデル。
1968 SL SPからTTL測光方式を除いたモデル。
1971 ES 世界初のTTL開放測光モデル。低速に電子シャッターを採用。Bと1/60秒以上はメカニカルシャッター。ホットシュー。ブラックボディのみ。
1973 ES II ESの改良機、電子シャッターにICを採用。クロームボディもある。
1973 SPF 開放測光TTL方式になる。ホットシューも付き完成域に達したメカニカルシャッターの最高モデル。
1974 SP II M42スクリューマウントの最終機。ホットシュー付き(SPのリバイバル機)。


関連サイトPentax Camera Repair 日本語版
 ペンタックスSPシリーズ取説など


【作 例 】 by Asahi Pentax SPF
SMC Takmar 135mm F2.5 / f5.6 1/60 Fuji Negacolor ISO800
sample photo
 2002 7 June 宮間利之とニューハード・ライブ R's Art Courtにて
 135mmレンズのF2.5は当時としては明るいレンズだった。人気のあったレンズなので生産量が多かったらしく中古市場で安く買える。

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