ヒデはおっとりなのか図太いのか、鈍感で素早い猫らしさのない猫であった。兄弟たちが活発に遊んでいても、我関せずといった風体であった。かといって仲間はずれの様子もなく、じゃれついてきても自ら手をだすことはあまりない。どちらかと言えば常に負けているようで弱々しい感じさえした。
夏のある日、椅子に置いた麦わら帽子に入って寝ていた。軽くドタッという物音に目をやると、麦わら帽子もろともヒデが落ちていた。寝返りして落ちたのだろうが、ヒデは身動きもせずに平然と寝ている。どうしたことか、これはいかん!どこか足りないんじゃないかと思った。家族は笑って「大人しいだけだよ」と言う。それにしても落ちてそのまま寝ているのは普通じゃない。そうこうするうち病気の気配もないし、人間だってベッドから落ちてそのまま寝ている人もいるから、ヒデの性格だと思うようになった。
戯れる様子もヒデは申しわけ程度に手をだすくらいだ。ある時ヒデに向かって猛烈に突進した子猫がいた。一瞬ヒヤッとしたが、ヒデは体をかわすように垂直に舞い上がった。空振りした子猫は再度ヒデに向かった。またしても垂直に舞い上がった。ひらりと体をかわす様は相手をあざけ笑うようであった。してやったり!あっぱれだ。それにしても垂直に舞い上がるのは、他の猫たちには見られない行動だった。やっぱりヒデは猫だった。ここぞという時は威力を発揮する猫だった。こうした目で見るようになったせいか、ヒデは体をかわすのが面白そうで、そうした場面が多く見られるようになった。
「ヒデがおもしろい格好して寝てるよ」
階下から小声がかかった。階段を降りてみると台所に積んだジャガイモの一つを枕にし、全身から力が抜けた寝相はユーモラスで、いかにもヒデらしかった。
普段なら物音にも動じないヒデだが、ここは慎重に撮影の準備をしなければならない。準備が整っても起きる気配がない。そこで欲がでて積んであるジャガイモを一つひとつ慎重に取り除いた。トウモロコシの皮は枕の下にあるので諦めたが、結果的にはこれでよかった。高出力のストロボ発光音とシャッター音で、一枚撮ったら起きてしまうと覚悟していたが意外に動じない。結局3 枚くらい撮ったところで寝相を変えたが、起きる気配はなくそのまま寝ていた。
屏風に寄り掛かり、相変わらずヒデらしい格好で寝ていた。直前でカメラを構えると、つかの間目を開いたがすぐに寝てしまった。体が傾いて手前に滑ってくると目を開き、体勢を立て直すかと思いきや横になってしまった。